報酬改定の重要トピックを解説|介護保険【令和6(2024)年度版】
令和6(2024)年度の報酬改定の主要4テーマを紹介し、影響範囲が広いトピックを取り上げてわかりやすく解説します。
報酬改定を取り巻く状況
報酬改定は時代の変化に制度を合わせるためにおこなわれます。さらに令和6年度は介護保険とも密接に関わる診療報酬や障害福祉サービス等も同時に改定されます。
これから高齢化が進むにつれ介護サービスのニーズはますます高まっていきますが、反面、生産年齢人口の減少による介護業界の職員確保も課題となっています。現状の課題を踏まえてどのように報酬や制度を改定するか、議論が進んでいます。
なお報酬改定・制度改正の基礎知識やスケジュールは以下の記事をご覧ください。
▶「報酬改定・制度改正の基本」についての解説記事を読む
令和6(2024)年度報酬改定4つのテーマ
令和5年5月24日に実施された第217回「社会保障審議会介護給付費分科会」では、以下4つの分野横断的なテーマを念頭に置き、議論することが提案されました。これらのテーマはいずれも、以前から検討・改定が重ねられている大きな課題です。
- 地域包括ケアシステムの深化・推進
- 自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進
- 介護人材の確保と介護現場の生産性の向上
- 制度の安定性・持続可能性の確保
引用:令和6年度介護報酬改定に向けた今後の検討の進め方について(案)|厚生労働省
社会保障審議会介護給付費分科会では、令和5年6月~8月上旬にかけて各事業における現状の課題と論点が、8月下旬~9月中旬に分野横断的なテーマに基づく課題と論点がまとめられました。今後は関係団体ヒアリングを経て、具体的な審議がなされていく予定です。
ここでは分野横断的なテーマに基づく審議の中から、おおむね全ての介護保険サービスの事業運営に影響がありそうな「介護人材の処遇改善」「人員配置基準」に関する内容について挙げてみます。
介護人材の処遇改善など
処遇改善加算
介護職員への賃金に直結する加算として処遇改善加算があります。交付金としては平成21年から、加算としては平成24年から始まった処遇改善は、その後も加算割合のアップや特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の創設など改善が進められてきました。
しかしながら結果として処遇改善に関する加算が3種類となり、煩雑な仕組みによる事務負担の重さが課題になっています。そのため3つの加算を一本化して事務負担を軽減するなど、使い勝手のよい加算にするための見直しが検討される予定です。
職場環境改善・キャリアアップ
介護人材の不足が課題となる中、離職防止の取り組みとして職場環境の改善やキャリアアップなどについても議論がなされています。
職場環境やキャリアップについては、現在の処遇改善加算でも「職場環境要件」として具体的な内容が列挙されており、これらについても活用の成果や現在の労働環境などを踏まえた見直し、実効性を持った運用のための方策が検討される予定です。
参考:介護人材の処遇改善等 (介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)|厚生労働省
人員配置基準など
常勤専従要件
育児・介護などでフルタイム勤務が難しい人でも働きやすいよう、これまでも常勤や専従などのルールについて見直しが検討されてきましたが、より柔軟な働き方ができるよう管理者の常勤専従の考え方についても見直しが予定されています。
ローカルルール
人員配置基準は、厚生労働省令が定めた基準をもとに各自治体が条例で定めています。この条例は厚生労働省の基準の範囲内であれば、地域の実情に応じた制定や運用が可能とされています。
そのため自治体により見解が異なる、いわゆる「ローカルルール」が生じます。これにより、例えば複数の自治体で運営を行っている事業者でのローカルルールへの対応負荷などの問題が発生している状況です。
特に1人の職員が複数の職種を担う兼務については、厚生労働省令で「管理上支障がない」や「利用者の処遇に支障がない」と規定されていますが、具体的に「支障がない」状態の示しがないため、結果として自治体ごとの解釈の違いが見られます。今回の改定でローカルルールの整理を経て、必要な対応について検討が進められていくことでしょう。
テレワークの取扱い
人材不足解消と柔軟な働き方の実現の観点からはテレワークの推進も議論されており、テレワークの際の人員配置上の扱いについても、業務内容やサービスへの影響を踏まえて検討される見込みです。なお管理者の扱いはすでに令和5年9月5日に示されています。
情報通信機器を活用した介護サービス事業所・施設等における 管理者の業務の実施に関する留意事項について|厚生労働省
参考:人員配置基準等 (介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)|厚生労働省
分野横断的なテーマでの審議内容一覧
分野横断的なテーマに基づく審議内容には、上に挙げた内容も含めて以下のものがあります。キーワードとして理解しておくだけでも現状の介護保険の課題が把握できます。厚生労働省の資料へのリンクを貼っていますので、気になるトピックについてはぜひ資料も読んでみてください。
第222回(2023年8月30日)
第223回(2023年9月8日)
第224回(2023年9月15日)
- 感染症への対応力強化
- 業務継続に向けた取組の強化等
- 口腔・栄養
- 制度の安定性・持続可能性の確保
- 高齢者虐待の防止/介護現場における安全性の確保、リスクマネジメント
- 地域区分
- 今後の新型コロナウイルス感染症の退院患者受入に係る特例的な評価について
まとめ
これらの分野横断的なテーマを把握しておくと、今後の報酬改定へ向けた議論内容が理解しやすくなるはずです。また各事業についての論点も、関係団体ヒアリングを経て検討が進んでいきますので、動向を確認しておくといいでしょう。
※ 本記事はすべての関連情報や指定権者ごとの解釈を網羅するものではありません。記事の内容には万全を期しておりますが、実務においては必ずご自身でも指定権者をはじめとする関係行政や国保連などの最新情報をご確認ください。
執筆:瀧上 真悟
社会福祉士
千葉県社会福祉会会員 / JAPAN MENSA会員
社会福祉法人、NPO法人、株式会社で様々な福祉事業の立ち上げや運営に携わった後、福祉コンサルタントとして独立。障害者総合支援法、児童福祉法、介護保険法に基づく事業を運営する企業をサポートしている。
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